蜜蜂と遠雷(映画) 感想
全体の感想は、苦しくて綺麗、だ。
感情は苦しくて暗い(特に音楽を好きだと心から言えないアヤの感情)のに、
純粋な感情(音楽を純粋に好きでいられる天才くんや昔のアヤの気持ち)と混ざり、
さらに随所で流れるピアノの音と、印象的なフレーズが引き立つ。
私の好きな構図である、苦しさと綺麗さの対比が見事だった。
物語の流れとしては、ガールミーツボーイだろうか。
主人公である、松岡茉優の演じるアヤはかつて消えた天才少女と言われ10年以上ぶりに表舞台に立つ。母親を亡くす前後で音楽を純粋に好きでいられた子どもの頃の気持ちが分からなくなってしまい、スランプに陥っていた。1度はピアノから離れたものの、音楽を諦めきれず、最後のチャンスと言ってコンクールに出場する。そこで、音を心から愛する天才と出会う。
あらすじには、ピアニスト4人の話となっているが、実質はこの2人の話が中心だ。
特に松坂桃李が2人目の主演ってなってたけど、印象は非常に薄かった。叶えたい夢があるけど、結局天才になれないことを再確認し、舞台から下りる、というよくある設定だったし、後半はほぼ出てこなかったからだろう。
演出面で強く思ったのは、会話が異常に少ない。
表情のみで心情を汲み取らせるシーン、ピアノを奏でるシーンでほぼ8割くらいの印象だ。
特に松岡茉優の表情が印象的だった。完全な無表情、作り笑顔、そして衝動に駆り立てられる必死な表情、覚悟を決めた落ち着いた表情、ラストに見せる心からの笑顔。
このように、映画ではビジュアルと音響が重要な役割を果たしていた。
とても気になったのは、原作小説の描写だ。文字だけで、ビジュアルと音響で作り出された美しい世界観を表現できるのだろうか。数少ない会話の中に出てくる印象的なフレーズを鑑みると期待が高まる。
ぜひ一読してみたい。